ベートーヴェンのピアノ・ソナタ
クラシック音楽シリーズ第3弾として、今回はベートーヴェンのピアノ・ソナタについて論じてみようと思います。
以前、ショパンとリストのそれぞれのピアノ練習曲集について論じましたが、ベートーヴェンは練習曲らしい曲は残しておりません。
その代わりではないですが、不滅の金字塔ともいうべき、ピアノ・ソナタ全32曲を遺しました。
厳密には、若い時分に数曲ピアノ・ソナタを書いていますが、習作的な色合いが強いのか、その金字塔には含まれてはおりません。
一方、第19番や20番のように、比較的ピアノの初級向けの曲が金字塔に入っていますので、ある意味これがベートーヴェンのピアノ学習者向け練習曲ともいえるものかもしれません。
全32曲のうち、第8番「悲愴」、第14番「月光」、第21番「ワルトシュタイン」、第23番「熱情」あたりが有名ですが、私はやはり、後期ソナタ、特に難曲中の難曲で知られている第29番「ハンマークラヴィア」が大好きです。
第1楽章は華やかな出だしで始まり、対位法を駆使しながらソナタ形式での曲展開にそのまま引き込まれる魅力を持っております。
その一方で第2楽章は、スケルツォという名の通り軽快で短く、それこそ諧謔的で第1楽章と第3楽章の間の間奏曲的な位置づけと感じられるものです。
次の第3楽章は、きわめて内省的でありながら、訴えかけるようなフレーズも随所に出ており、後期の特徴であるカンタービレが効果的に使われています。
そして最終楽章である第4楽章は、第3楽章からの間奏曲的な序章を経て、大フーガともいえる規模で、流れるようなフーガを展開します。
ベートーヴェンの持つ対位法的な技法の極致ともいえるこのフーガは、特に後期の作品によく見られ、弦楽四重奏曲「大フーガ」や、ディアベリ変奏曲第31変奏にも用いられております。
ベートーヴェンが後期において多用している対位法的な曲展開にもあるとおり、それだけ音楽の極致が対位法であることを示しており、その大家であるバッハが音楽の父と呼ばれることの証ともいえます。
私も対位法を用いた曲を好んで聞いていますので、ソナタ第30番以降も好きですが(第31番にもフーガが出てきます)、やはり聞きごたえがある曲では第29番に勝る曲はありません。